近年ではモバイルバッテリーの大容量化・軽量化・低価格化が進んでいます。
しかし、「どうせ買うなら安くて大容量なモバイルバッテリーがいい」と安易に考えて購入すると、いざ旅行で使いたいときに使えないという事態になります。
本稿では、飛行機を使う全ての旅行者が必ず知っておくべき、モバイルバッテリーの「ワット時定格量」を解説します。知っておきたい落とし穴もありますので最後までご覧ください。
モバイルバッテリーの大容量化が進んでいる理由
スマホの高性能化に伴い、スマホ自体のバッテリーが大容量化しています。これにあわせてモバイルバッテリーもセル容量が大きいモノが売れています。
つい数年前までは5000mAhあたりが主流でしたが、現在では10,000~20,000mAhが特に売れているようです。その理由は次のように考えます。
- 高速充電できるPower Delivery規格(以下「PD」という)の充電器やモバイルバッテリーの選び方、スマホなどのデバイスが揃ってきた
- スマホ内蔵バッテリー自体が5000mAhなど大容量化してきた
- ノートPCもモバイルバッテリーでPD充電ができるようになってきた
- その他、USB充電ができる機器が増え、より多くの容量が必要となってきた
こうして大容量化と低価格化は進み、ノートPCへの充電や災害時の非常時対策として使える40,000mAhのような超大容量のものまで数千円で買えるようになってきました。
ところが飛行機を使う旅行者にとって不便なことがあります。
飛行機への持ち込みに制限があるモバイルバッテリーと、その定格量の計算方法
多少の重量や大きさを許せるなら、安くて超大容量のモバイルバッテリーを買えばいいじゃないか。大は小を兼ねる。と思いがちですが、使い方によっては落とし穴があるのです。
それは、モバイルバッテリーは飛行機への持ち込みに制限があるということです。
モバイルバッテリーに使用されるリチウムイオンは、使い方や劣化状況により発火する危険性があります。このため預け荷物(受託手荷物)に入れることはできず、容量(正確には定格量)が一定以下かつ決められた個数にかぎり機内持ち込みするしかありません。
こうなると、もし持ち込めないモバイルバッテリーを所持していた場合、飛行機への搭乗前の検査場をそのまま通過することはできません。ライターなどと同様に没収ボックスへ入れるしかなくなるのです。
本稿の執筆時、ANA国内線・国内線では、モバイルバッテリーの取扱いについて次のような共通の取り決めがあります。いったん要点だけ引用します。
リチウムイオン電池(バッテリー)はワット時定格量が100Whを超え160Wh以下のものは2個まで機内持ち込みできます。お預けはできません。
「ワット時定格量」はあまり聞き慣れないと思います。計算方法は次の通りです
定格定量(Ah)× 定格電圧(V)= ワット時定格量(Wh)
例えばこちらのヒット商品。10,000mAhで30W出力が可能なモバイルバッテリーを例に挙げます。
最大出力20Vにより、MAXで30Wでの充電ができるとされていますが、定格電圧は3.7Vです。
Ankerも公式に表明していますが、一般的に使用されているリチウムイオン電池(セル)の定格電圧は3.7Vです。20V出力はあくまで内部で直列接続や昇圧等で実現しているにすぎません。
話は戻り、10,000mAhは10Ahとなりますので、まとめると次のようになります。
定格定量 10Ah × 定格電圧 3.7V = ワット時定格量 37Wh
以上より、このモバイルバッテリーはワット時定格量が37Whとわかりました。つまり、セル容量10,000mAhのモバイルバッテリーは100Whを下回っているので機内持ち込みが可能ということができます。
次に、セル容量がどれくらい大きいものまで大丈夫かを確認します。
本稿の執筆時、ANA国際線全線共通のご利用ガイドには次のような記載があります(この取り決めは国内線も同様)。ちなみにJALも国内線・国際線とも同条件でした。
※外付けとなるモバイルバッテリーは「予備電池」という扱いになります。
予備電池
電子機器本体と合わせての輸送が必要となるため、予備電池単体での輸送はできません。リチウム金属電池はリチウム含有量が2g以下のもの、またはリチウムイオン電池(バッテリー)はワット時定格量が100Wh以下のものは機内へお持ち込みできます。お預けはできません。
リチウムイオン電池(バッテリー)はワット時定格量が100Whを超え160Wh以下のものは2個まで機内持ち込みできます。お預けはできません。
*携帯電話用のリチウムイオン電池内蔵充電器は、予備電池の扱いです。
https://www.ana.co.jp/ja/jp/guide/boarding-procedures/baggage/international/caution-restriction03/ より引用
※リチウム金属電池は、充電できないリチウム電池のことであるためモバイルバッテリーとは関係ありません。
以上の「リチウムイオン電池(バッテリー)はワット時定格量が100Whを超え160Wh以下のものは2個まで機内持ち込みできます。」ということは、ワット時定格量37Whなら、100Whを下回るため「機内持ち込みができる」「個数制限はない」と再確認できました。
この「ワット時定格量が100Whを超え160Wh以下」について、定格電圧が3.7Vと決まっているため、逆算してみると次のようになります。
なるほど、容量26,800mAhと中途半端なモバイルバッテリーが売られている理由は、機内持ち込み制限が国際的にも緩い容量27,000mAh以下を意識したものだったのかと納得しました。
航空会社によって飛行機へのモバイルバッテリー持ち込み制限の基準が異なる
なるほど。国際線でも容量43,000mAhの大容量も二つまでOKか。と安心するのは早いです。
航空会社によってこの機内持ち込み基準が異なるのです。往復やトランジットなどで異なる航空会社を利用する場合も想定しておきたいものです。
例えば、シンガポール航空の場合、モバイルバッテリーのワット時定格量100Wh未満しか持ち込みが許されていません。一人20個までとありますので実質的には個数制限なしといえます。
一方で、韓国アシアナ航空では、100Wh(27,000mAh)以下は5個までとしています。100Whを超えるものは、航空会社の承認を得た携帯型医療電子機器のみとなっています。
ほかにもいくつか調べてみましたが、航空会社によって条件は若干異なるものの、100Wh(27,000mAh)以下のモバイルバッテリーであれば概ね問題ないようでした。ただし所持個数の制限(上限)が異なることもあり、いずれにしても厳密には事前に確認を取った方がよさそうですね。
最後に、お気づきでしょうか。ANA国内線・国際線では、容量が約43,000mAh(=160Wh)までのモバイルバッテリーなら、2個まで持ち込みが可能だった。しかし例として挙げた2つの海外航空会社では、容量が約27,000mAh(=100Wh)までのモバイルバッテリーしか持ち込みできないのです。
つまり、例えば40,000mAhなどの大容量モバイルバッテリーを所持していた場合、ANAで海外へ行くときはOKでも、ほかの海外航空会社を利用しようとしたときにNGとなり、その時点でモバイルバッテリーを没収ボックスへ入れざるを得ないということが起きるのです。
なので、上記でもご紹介しましたように、なるべく大容量がよければ、100Whギリギリのモバイルバッテリーがオススメということになります。
もしくは10,000mAhを2,3個所持しておくのもアリですね。1つあたりの容量が控えめでも、分散しておけば紛失盗難リスクも軽減されます。
せっかく買ったモバイルバッテリーを捨てる羽目になる。行くときはよかったけど帰りは持って帰れない。そんなことにならないようご注意ください。