低価格なDAC内蔵ヘッドホンアンプが欲しい!
これまではスマホでドングルDACのiBasso Audio DC04PROとつなぎ4.4mmバランスで音楽を楽しんでいた。たまに気合い入れて聴きたいときは、SONY NW-ZX707を使うこともあった。
イヤホンならそれでいいのだが、能率の高くないゼンハイザーHD650を鳴らすには課題があった。
DC04PROではパワー不足で音に覇気がない、NW-ZX707をUSB-DAC代わりにするのはもったいない。そう考え、パソコンとつなぎっぱなしにしておける据置型DACを探していた。
結論としては、S.M.S.L M300SEを購入した。なぜ、M300SEの購入に至ったか、据置DACをお探しの方に参考となるようレビューを交えてご紹介したい。
S.M.S.L M300SEを買うに至った理由
S.M.S.L M300SEの主要スペック
冒頭のとおり、S.M.S.L M300SEを購入した。
DACチップ:Cirrus Logic CS43131×2
出力レベル:RCA: 2.0Vrms XLR: 4.0Vrms
THD+N(UN-WTD):0.00013%(-117dB)
ダイナミックレンジ(UN-WTD): RCA:120dB XLR:132dB
SNR(UN-WTD): 131dB
入力端子:USB/光ファイバ/同軸/Bluetooth
出力端子:ライン(RCA)、バランス ライン(XLR)、4.4mm バランスヘッドホン端子、6.35mm アンバランスヘッドホン端子
ビット: USB: 16bit/24bit/32bit/1bit 光ファイバ/同軸: 16bit/24bit/1bit
サンプリングレート:USB: PCM 44.1~768kHz DSD64、DSD128、DSD256 光ファイバ/同軸: PCM 44.1~192kHz、DSD64(DoP)
Bluetooth ver: BT5.0(SBCに対応)
消費電力:3W
購入したい据置型USB DACの必須条件を整理する
こうしたガジェット選びには、事前に叶えたい条件を考えておきたいもの。筆者が今回挙げた条件は次の通り。
条件1:4.4mmバランス出力ができること。
条件2:DACチップは旭化成(AK)ではないこと。
条件3:3万円以下であること
条件4:Dual DACチップであること
条件1:イヤホン/ヘッドホン用の4.4mmバランス出力ができること
一般的にスマホなどでも採用されているイヤホンの端子は3.5mm(シングルエンド)というが、音質に有利な4.4mm(バランス)というものがある。筆者はこの4.4mmバランスのイヤホンやヘッドホンを使いたいと考えたからだ。
公表されていない場合があるが、4.4mmヘッドホン端子があるのに(電気的に)バランス出力ではないことがある。プラグは4.4mmだけど従来のアンバランス(シングルエンド)というもの。
条件2:DACチップは旭化成(AK)「ではない」こと
これはまったくの個人的な好みである。あくまで筆者は低価格帯でのAKチップ搭載機は避けたいと考えた。
オーディオメーカーに関係なく、内蔵DACチップのメーカーによって音質傾向が大きく変わることは、DACアンプなどを使ったことがある方ならお分かりだと思う。
AKチップの特徴は「アナログっぽい滑らかさと表現力」がメリットなのだが、低価格帯ではその特徴はある程度活かされながらも音場が狭いとよく言われる。これは経験上、実際にそうだと感じているから。つまり筆者は音場が広い方が好きだからAKチップ以外を選びたいと考えた。
条件3:3万円以下であること
今回は、パソコンにつなぎっぱなしにできる高出力DACヘッドホンアンプが欲しいという状況。代わりがないわけではないことから利便性向上の側面が大きい。音質もDC04PROと同等以上であれば特に問わない。
言い換えれば、音質のステップアップを狙ったものではないからお金をかけたくないので、予算は最小限にしたいというのが理由。
条件4:Dual DACチップであること
これはなんとなく。左右独立でDACを駆動している方が音質面では有利と想像できる、という程度である。
低価格帯の据置型USB DACは意外と選択肢がない問題
5万円以下で買えるDAC内蔵ヘッドホンアンプが少ない理由
調査段階では、いったん条件を度外視して1~10万円程度の据置型DAC内蔵ヘッドホンアンプで調べてみた。価格条件(3万円以下)自体が妥当ではない可能性があったからだ。
基本的にはネットショップにて、足かけ半年程度かけて探してみた。実機を試聴する時間がほとんど取れないことから、DACチップとメーカー、クチコミなどで判断することにした。
このためAliExpressやオーディオ専門店でしか見かけないような商品では情報が少なすぎることから、Amazon・楽天・ヨドバシあたりで見つけられるくらい知名度があるものを中心に探した。
そうすると分かったことがある。価格が10万円以上であれば気になるものはあるが、5万円以下となるとガクンと選択肢が減ることだ。
これはおそらく、1~5万円超の範囲にてドングルDACやポータブルDACがそれなりに売れていることから、商売的に据置型DACは同価格帯を避けているのではないか。
現に、FOSTEX HP-A3シリーズやマランツHD-DAC1など、国内メーカーで定評のあるDAC付きヘッドホンアンプもあるのだが、なかなか4.4mmバランス出力に対応した後継機を出さない。かたや10万円オーバーはそれなりに新機種が登場できている状況からこう考えた。
低価格帯のDAC内蔵ヘッドホンアンプは中華メーカーがスゴい
その状況下で、低価格帯でも中華メーカーはチャレンジしていて、ほぼFiiO(フィーオ)とiFi の独壇場となっている気がしている。
FiiOは、若干予算オーバーではあるがヒット商品のK7が気になった。しかしFIIO K7はAK4493S×2を搭載しており「条件2:DACチップは旭化成(AK)ではないこと」を満たせない。
食わず嫌いもいけないので実際に試聴もしたが、筆者の気持ちは揺れなかった。この価格にしては艶やかで奥行きもあり、音だけでいえば価格を超えて優秀と感じた。「さすが大ヒット商品、これは売れて当然」とは思ったが、音場は広いとは言えず対象外とした。
また、R2Rという独自ディスクリートDACを使用したFIIO K11も気にはなった。しかし低価格のディスクリートDACに期待が持てなかった。試聴したら気が変わったかもしれないが予算ギリギリであることや、発売してしばらく経ってもレビューが少ないのも気になった。
※ディスクリートとは、ワンチップではなく基板で構成するもの。
最終的には、以下の2機種まで絞ることができた。まずはiFi audio ZEN DAC 3である。これもヒット商品、ZEN DACシリーズの最新作である。
iFi audio ZEN DAC3は若干予算オーバーだが、歴代シリーズよりゼンハイザーのヘッドホンユーザーから大好評であることが見逃せない。バーブラウンのDACチップをベースにしているのも気になる。
そしてもう一つの候補は、S.M.S.L M300SEである。知名度低めの中華メーカーではあるが、クチコミも悪くないので調べてみた。
S.M.S.L M300SEには、筆者が愛用のDC04 PROにも搭載されているCirrus Logic社の高性能DACチップ「CS43131」が計2基採用されていること。2万円を大きく切る低価格であること。リモコンが使えること。その他条件を全てクリアしていた。なによりも安い。
最後までZEN DAC3とどちらにするか迷った。ZEN DAC3はアナログボリュームを採用していることからギャングエラー(極小ボリュームで片方の音が聞こえなくなること)が発生する可能性も避けたかった。
結局は、CS43131を搭載していて音質や音場に不安がないこと、ZEN DAC3と2倍以上となる価格差で今回はM300SEに決めた。筆者の周りにユーザーはいないがはたして吉と出るか凶と出るか。
S.M.S.L M300SEレビュー
S.M.S.L M300SEの外観とインターフェース
わが家に着弾したM300SEがこちら。Amazonで買ったので元箱に伝票貼ってそのまま送ってくれましたとてもありがとう(マジやめてくれ
同梱内容は、本体、リモコン、USB-Cケーブル、Bluetooth用ミニアンテナ、簡易ドキュメント&保証カード。なおリモコンの電池(単4電池×2)は付属しない。
簡易マニュアルは英語と中国語だけ。直感で操作は可能だけど、ちょっと難しい事をしようとすると悩む。ファームウェアアップ方法やデジタルフィルタ詳細など分かりにくいが、こんなもんだろう。
正面は小型ディスプレイとボタン二つ、ボタン兼用ロータリー(音量やメニュー選択など)、4.4mmバランスポートと、6.3mmシングルエンドポートがある。このため一般的なヘッドホンでももちろんそのまま使用可能である。
普通のイヤホン(3.5mmシングルエンド)を使いたい人は、こういうのがあると便利。
裏面は、XLRバランスライン出力、3.5mmライン出力(シングルエンド)、同軸、光、Bluetoothアンテナ、USB-Cポート2つ(データ兼電源・補助電源)。立派なパワーアンプを使っている方は、是非XLRバランスを活用してもらいたい。
わが家にはXLRバランスの入力可能なアンプはない。なんとなく音質的に3.5mmライン出力は心もとないと考え、パワーアンプへつなげるのにXLR→RCAの変換ケーブルもいっしょに買った。
こんな感じに。くれぐれもアンプ側のXLRはオスを選ぶべし。
操作感としては良くも悪くもない感じ。ボリュームを変えるつもりがロータリーを押し込んでしまうと設定メニューが表示されたりってイライラは否定しない。でも頻繁に使わないのでこんなもんかなって程度。
使い方としては、USB-Cをパソコンやスマホに挿すとDACとして認識されるので、そのまま音楽サブスクなどを再生すればいい。つまりドングルDACと特に使い勝手は変わらない。機能も同等。
ただしパソコンで使用する際には、Windows10/11では公式サイトからドライバをインストールしないと認識しないので注意が必要だ。ドライバを入れればUSB-Cで簡単に認識する。ハイレゾ再生には必要に応じて周波数/ビットの設定は行えばよい。
一方でMacではドライバは不要だが、ハイレゾ再生には設定変更が必要となる。過去の記事をご覧頂きたい。
なお、今回は光/同軸のデジタルケーブル接続は検証していないが、筆者の知るかぎり留意点はなさそうだった。
ちなみに補助電源は少しクセあり。補助電源USB-CにUSB充電器からのケーブルを挿しておいて、メインのUSB-Cをパソコンやスマホに差し替えて使っていると音が出ないことがある。このときはいったん補助電源USB-Cを差し直すと認識してくれる。筆者は面倒なので補助電源USB-Cは使わないようにした。
S.M.S.L M300SEのサウンドレビュー
とりあえず何も期待せず、即出しでの音をスピーカーから聴いてみた。M300SEをDACプリアンプとして使い、パワーアンプはFosi Audio BT30D、スピーカーは自作(メルカリで買った)の小型ワンウェイ。音源はAmazonミュージックからハイレゾ音源を適当に選んだ。
少し聴きこんで思わず声に出たのが・・・
へえ、ええやん。同じDACチップのDC04 PROよりいい。
一言でいえば、クリアで音場の広いサウンド。
マイルドにドンシャリだが、ピーキーもブーミーも刺さりもない。澄んだ音というよりは、ややドライな綺麗な音。中華製品だけど元気すぎず正統派。解像度感は高すぎないが明瞭感はあり、かつ中高域のヌケも良好。おざなりになりがちな中低域もコシがある。
あれだけコンパクト&省電力に倒したDC04 PROと比較するのも酷ではあるが、比較するとM300SEのほうが中低域にコシがあるようで、同じDACチップを使っているのに芯のある音だなあという印象。
そして繰り返しになるが音場が広い。それでいて楽器の定位も良好だ。まるでアーティストが大きなステージで演奏していて、それに包まれるような感覚がある。とてもよい。
ただし細かく聞くと、わずかにガサつきというか荒さを感じる。そして奥行きが薄い。でもこのあたりはエージングすればだいたい治る「オーディオ機器あるある」なので気にしない。
丸一日以上、楽曲やラジオをかけっぱなしにして軽くエージングを終え、再度スピーカーで聞いてみた。
昨日よりいい。え?これで1.5万円くらいだっけ?もうこれでええやん。
前回聴いたときに感じた不都合が解消されていて、良いところだけがそこにはあった。ニアフィールド環境(スピーカーと耳が近い)は、音の荒さが目立つもの。だが何も文句がない。「もうこれでいい」という印象。
ここまで予想外に良好だとサブウーハーが欲しくなった。小口径スピーカーでは物理的に低音が弱いからだ。Fosi Audio BT30Dってサブウーハー用の出力があるので。また欲しいものが増えてしまった。ソニーかFOSTEXか買うかな。
ともあれ、満を持してゼンハイザーHD650(4.4mmバランスケーブル装着)で聞いた結果は・・・
勝った!この価格帯でこの音なら、もうこれでいいじゃんね?
さきほどまでスピーカーで聴いていた特徴をそのままに、HD650らしさが際立っている。DC04 PROにあったパワー不足も感じない。
広い音場で、ボーカルは前にいる。けして遠くはないが耳元ではない。口は小さくも大きくもなくちょうどいい。音楽なら全般的に楽しめると思う。逆に耳元(なんなら頭の中)でささやかれたいというASMR好きには向いてないかもしれない。
HD650はご存じの方も多いと思うが、良く言えばアコースティック方面が得意。悪く言えば高音が抑え気味に聞こえる特性がある。だからクラシックやイージーリスニング、ジャズなどに適しているとよく言われる。
このためHD650をAKチップ搭載DACと組み合わせると、少しアナログテイストになりすぎる傾向がある。しかし今回のCSチップ(ESチップも)はやや元気な音作りなため、HD650と組み合わせるとジャンルを問わずオールラウンドに対応でき、かつ聴き疲れもしないという良いことずくめとなる。これも条件2にあった「AKチップ以外」とした理由のひとつでもあった。
ちなみにHD650だけでなく、低価格イヤホンのイチオシであるfinal E3000(普通に3.5mmシングルエンド接続)や、ミドルクラスのfinal E4000(4.4mmバランス出力)でも試したが傾向はあまり変わらなかった。やっぱE4000いいな。。。
まとめると、カジュアルに聴く分には何も問題ない。広い音場とほどほどの奥行き、過不足ない音質、聴き疲れないが解像度も良好。完全なピュアオーディオなんて求めるべくもない価格帯だし上を見たらキリが無いが、目的と条件は想定以上に達成できた。
まとめ
PCにつなぎっぱなしにでき、かつ4.4mmバランス出力に対応した手軽な据置型DAC内蔵ヘッドホンアンプを探した。
低価格帯の据置型DAC内蔵ヘッドホンアンプは、国内外の大手メーカーではあまり見かけることができず、知名度のある中華メーカーで探してみたら、FIIOとiFi audioが目立っていたが、SMSLというダークホースがいた。
結果的に購入したS.M.S.L M300SEの特徴やメリットデメリットは次の通りだった。
- 2万円を大きく割るような低価格であったが、CS43131×2らしい音場広めで万人受けする音作りができていた。
- ゼンハイザーHD650のような「鳴らしにくいヘッドホン」でも元気に再生できることを確認した。
- 低価格帯DACとしては珍しく、XLRバランス出力を搭載しており、DACプリアンプとして大きな拡張性も感じられた。
- デメリットは、付属マニュアルや公式サイトの情報の少なさ。ただし挿せばすぐ使えるので、デジタルフィルタ変更などやろうとしなければ全く問題ないと感じた。
以上。買って良かった。長く使いたい。
なおAmazonレビューなどで「ポップノイズが聞こえる」と見かけたが、たしかに設定変更時などに発生することがある。でもそれは弱くて、スピーカーを傷めるようなものではないので気にならない。こういったものはファームウェアアップで解消することがよくあるので期待せずに待ちたい。